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自分が最も憧れる 幕末の剣豪から 頂きました





「ボクらの権利たい」     男谷精一郎



「先生,忘れ物しました。」
「そうか。わかった。」
「・・・掃除しちゃいかんですよね?」
「あたりまえた!」
 この会話に違和感を持たれた方も多かろう。しかしながら,男谷のクラスでは,
よくある会話なのだ。男谷のクラスでは,忘れ物をすると掃除をさせてもらえない。
・・・させてもらえない・・・?そう「させてもらえない」のだ。
 男谷は,新しいクラスを受け持った時,最初に必ず次の様な話をする。
「君たちは,『権利』と『義務』ちわかるか?簡単に言うと『権利』ちゃあ
『当然することができること』,『義務』ちゃあ『絶対しなけりゃならんこと』
ちゅうこつたい。わかるかい?・・・うん。」
「そんなら一つ聞く。掃除は,『権利』か?それとも『義務』か?」
みなさんはどう思われるだろうか?
聞くまでも無く,「義務」と答えるのが一般的というか,当たり前というか・・・
それが掃除に対するイメージになってもいるのではないだろうか。
敢えて言うなら,あんまり良く無いイメージに。
当然,子ども達も同じ様に答える。
「掃除は『義務』だと思います。」
と。何故なら,一言で言うと「掃除が嫌い」だからに他ならない。
もっと言うなら,掃除は,「汚いこと」「面倒くさいこと」であり,
「したくないけど,しなきゃならんもの」「したくないけど,させられるもの」
であるというイメージでしか無いのだから。
そこで,男谷は続ける。
「先生は,そげん思わん。この教室は,君たちが使う前,多くの先輩達が使って来た。
そして,君たちが使った後は,また多くの後輩達が何十年も使い続けて行く。
長く使っていかにゃあならん教室やけん,使う者がその時その時を,大切に大切に
使っていかにゃあならん。ばってん,大切に使っても,毎日汚れて行くやろ。
そいけん,毎日の掃除が,ばさろ大切になるったいね・・・ここまではわかるよね?」
「そんな大切な掃除は,この教室で多くのこつば勉強する君達たちやんけん,
できるこつなんよね。この教室ば,きれいかまんま次に続く後輩達に受け渡して行く。
こげな大切か仕事ば,他の者に任せられるわけが無か。だけん,この教室ば掃除するとは,
君達にしか出来ん,君達の大切な『権利』なんよ。君達が,大切に大切にしていかんといかん
『権利』なんたい。」
 多少無理のある論理ではあるのだが,最後の方など,「清き一票」をと絶叫する選挙演説
の様に力が入り,一気にまくしたてるように話す。だから子ども達は,ほとんど意味が分から
ないまま,男谷の熱弁に圧倒され,分かった様な気分になってしまう。
 そんな子ども達を前にして,さらに男谷は話を続けて行く。
「そげな君達の大切な権利である掃除。その掃除ば,忘れ物するごたる,自分のこつも
よおっとしきらんごたる人に,させるわけにゃあいかん。よかね。先生のクラスでは,
忘れ物した日は,掃除をするこつはできんけんね。よおっと覚えとかんといかんよ。」
「???!!!」
 ほとんどの子ども達が,最初その意味が分からず,まさしく「ハト豆」状態である。
 そこで,男谷はさらに続ける。
「よおっと分からんやったごたるなあ。もう一回言うよ。よかね。掃除は,君達の大切な権利
たい。そげな大切な権利は,忘れ物をせんちゅう義務をきっちり果たした人だけができるもんなんよ。
だけん,このクラスでは,忘れ物をした人には,掃除をさせるわけにゃあいかんと。忘れ物をした人は,
その日の掃除をすることはできません!よかね!。」
 子ども達は,男谷の熱弁に圧倒され,初めて聞く理屈(屁理屈?)に戸惑って,どうリアクション
していいのか,途方に暮れた様な顔をしている。ただ,中には「そんなら忘れ物した方が得やん!」
と考える子がいることも,当然想定して話しているのである。
 男谷の,この最初の熱弁だけで,子どもたち全員が理解し,その通りに動いてくれるのなら,
そんなに簡単な,楽なことはない。男谷も,そんなに能天気な楽天家では無い。それでも,子ども達に
熱弁を奮った以上,実行しなければならない。それが決して簡単なことでは無く,大きなリスクを伴う
ことも覚悟した上での熱弁なのだ。
 案の定,翌日から子ども達との根競べが始まった。
「先生,忘れ物しました!」
子ども達の,元気な嬉しそうな声が教室に響き渡る。
「達」だから,決して一人じゃあ無い。そりゃあ当然。汚い・面倒くさい・イヤイヤさせられる・
罰でさせられるというイメージの「嫌いな」掃除を,こともあろうに,忘れ物するとしないでいいのだから。
普通の子ども達なら,忘れ物をして当たり前。中には,忘れ物してもいないのに,「忘れ物しました!」
って言ってくる子もいる。
 掃除の時間になると,忘れ物をした子ども達は,邪魔にならない所で見学することになるから,
見学の子ども達で長蛇の列ができることもしばしば。下手をすると,子どもたち全員が忘れ物をすることも。
その時は,男谷一人で掃除することも覚悟しておかねばならない。
さらに厄介なのは,掃除の時間の異様な光景に敏感に反応し,批判して来る同僚や管理職。
きちんとした理由づけ無ければ継続することすら出来無いのだ。
これらの,すべてのマイナス要件に打ち勝ち,男谷の実践は続いた。
毎日のように
「先生,忘れ物しました!」
と嬉しそうに元気に言って来る子ども達に,顔色一つ変えることなく,叱責すること無く
「そうか。わかった。」
を繰り返す男谷。
わずかに残った「義務を果たした子」と男谷とで掃除は始まる。時間は15分間。
少ない人数でやらなければならないので,無駄な動きや無駄話をする暇など無い。
自然と黙々とテキパキと掃除は進められて行く。
大切なのは,掃除が終了した時。男谷は,一緒に掃除をした子ども達に,必ず確認する。
「し忘れた所は無かか?大丈夫か?」
 そして,確認が終わると,
「よ~し。きれいになったなあ。よ~頑張った。気持ちが良かなあ。」
 きれいになったことを一緒に喜ぶ。これが一番のミソなのだ。
 この言葉を聞いて,一緒に頑張った子ども達は,満足そうな笑顔を浮かべている。
 そこで,さらに男谷は続ける。
「よ~し。手ば洗ろうておいで。掃除ば頑張ると君達の手は必ず汚れる。ばってんね,
どげん汚れてもね,ちゃ~んと洗えば,また元通りのきれ~いか手になるけんね。
さあ,ちゃ~んと洗っておいで。」
 こんな作業と会話が毎日毎日続くことになる。同じことを飽きることもなく。
5月の連休も過ぎた頃になると,子ども達の態度に,変化が表れて来るのだ。
掃除をしたら教室がきれいになるのは一目瞭然。きれいになったことを喜べるのは,先生と一緒に
頑張った子ども達だけ。忘れ物をした子は,ただ見ているだけ。楽しそうに,満足そうに手を洗って
来る子ども達が,だんだんうらやましくなって来るんだろう。1回でもその気分を味わった子は,
掃除をしないと,何か損した様な気分になるらしい。
また,掃除が出来るにもかかわらず,ついサボってしまう子が出て来ても,そんな子ども達を見かけると,
男谷はニコニコしながら,
「おいおい。無理してせんで良かとぞ。したく無かったら,いつでも止めて良かとぞ。」
と声をかける。
不思議な現象ではあるが,「するな」「させん」と面と向かって言われると「したくなる」と言うもの
かもしれない。そんな気分は,瞬く間に子ども達の間に伝播して行く。
最初の頃,嬉しそうに「忘れ物しました」と言って来ていた子ども達も,冒頭で紹介した会話の様に,
忘れ物をしたことを悔い,掃除が出来ないことを残念がるといったニュアンスの言い方に変化し,
サボる子等いないのが当たり前になってしまった。
「そんなバカな」という声が聞こえて来そうだが,それが紛れも無い現実なのだ。
その結果,男谷のクラスの掃除時間は,活気にあふれている。手慣れてしまった子ども達は,1
0分かかるか,かからんかの内に,テキパキと終わってしまう。手の汚れを気にすることも無く,
黙々と進められるのだ。
ある日の子どもの日記に「今日はカップラーメン掃除やった。我ながらよく頑張った」ちゅう
書き込みがあった。男谷がその意味を尋ねると,
「今日の掃除はね,3分くらいで終わったっちゃん。3分ちカップラーメンが出来る時間やんね。
だけん『カップラーメン掃除』ちゅう名前ばつけたと。」
とニコニコしながら答えた。まさか3分で終わることは無いだろうが,それくらい短時間で満足の行く
掃除が出来るようになったのだ。
一朝一夕では無かったが,男谷のクラスの子ども達は,掃除をすることが,自分達の大事な「権利」である
ことを体得し,その結果に満足することが出来るようになった。そして,自分達が大切にして来た教室を,
少しでもきれいな状態で,次に続く後輩達に受け継いでもらいたいという気持ちを,日に日に大きくして
行った。






最後まで読んで頂き ありがとうございました。






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コメント

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タイトルは、『長崎のがばいとおちゃん』 …じゃなかったんですね(笑)

原稿用紙十枚とは 長いようですが、書こうと思えばとても短いですよね。

 
ん~ん。厳しい批評……
強いて言えば、子ども側の視点を打ち出して 子どもたちの気持ちの変化が見てみたいです
なんとなく解説ぽい感じで話が進んでいるので。

でも強いて言えばですYO 自分には書けません(涙)

コメントありがとうございます

おはようございます。

このエピソードは,男谷の学級経営の根幹になる部分で
これから,うそのような本当のようなエピソードが次々に
起こって行くのですが・・・残念ながらまだまとまっていません(笑)
男谷のことはともかく,大きく成長していく子ども達の姿を
まとめられたらとおもいます。

また是非ご意見をお聞かせ下さい。
ありがとうございました。

コメントありがとうございます

Greatメカ沢 様

おはようございます。

短編ならと思って挑戦したのですが
10枚にまとめるというのは,本当に難しかったです。
ご指摘頂いたことを活かして,次のエピソードに挑戦
してみます。

ありがとうございました。

・・・あっ 自分は長崎ではなく福岡の親父で~す(笑)

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